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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)771号 判決 1994年10月25日

原告(反訴)

木下欽哉

被告(反訴原告)

株式会社サンヨーオートセンター

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金九万円及びこれに対する平成四年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し、金五三万五一一八円及びこれに対する平成四年三月一八日から支払済みまで年五分の割台による金員を支払え。

三  被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対するその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを四分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

(本訴について)

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1 主文第一項同旨

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告(反訴被告、以下「原告」という)の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴について)

一  反訴請求の趣旨

1  原告は被告(反訴原告、以下「被告」という)に対し、二二六万八四六六円及びこれに対する平成四年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  1につき仮執行宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の反訴請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1  交通事故(本件事故)の発生

(一) 日時 平成四年三月一八日午後六時三〇分頃

(二) 場所 岡山県倉敷市西坂一七八七―三先道路上

(三) 原告車両 普通乗用自動車(岡山五九と五六二九)・原告運転

(四) 被告車両 普通乗用自動車(岡山五一ち九二八九)・訴外片山直運転

(五) 事故態様 直進走行中の原告車両と左折中の被告車両とが衝突した。

2  責任原因

本件事故は、見通しの良い国道上において、夕方で薄暗くライトを点灯し小雨が降つている状況下、優先道路を時速約五〇キロメートルで直進走行中の原告車両と、狭路一時停止車線から無理な左折をして、右国道上に進出した被告車両とが衝突したものであり、原告の不注意に基づいて発生したものであるから、本件事故により被告に生じた損害につき原告に賠償責任があるが、被告車両の運転手訴外片山直(以下「片山」という)にも進路妨害等の過失があるので、過失割合は原告七〇パーセント、被告三〇パーセントが相当である。

3  損害

原告車両修理費 三〇万円

4  よつて、原告は被告に対し、民法七〇九条に基づき、前記損害三〇万円の三〇パーセントである九万円及びこれに対する本件事故の日である平成四年三月一八日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、原告の不注意で本件事故が発生したこと、本件事故による被告の損害について原告に賠償責任があることは認めるが、その余は争う。

本件事故は、被告車両が一旦停止していたところへ原告車両が追突したものであり、過失割合は原告が一〇〇パーセントである。

3  同3は争う。

(反訴について)

一  請求原因

1  交通事故(本件事故)の発生

本訴請求原因1のとおり。

2  責任原因

本件事故は原告の前方不注視等の過失により発生したもので、過失割台は原告が一〇〇パーセントであるから、原告は民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 本件事故により被告車両の後部右側が破損し、被告は損害を受けたところ、被告は、原告代理人の福川律美弁護士(当時は原告が契約している興亜海上保険株式会社の代理人)の勧めにより、平成四年四月上旬ころ、原告と次のような示談契約を締結した。すなわち、被告車両は被告の関連会社であるサンヨーオートセンターフアーレン倉敷の展示車で、かつ試乗車であること、被告車両は登録(同年三月一二日)からわずか六日後に本件事故に遭つていることから、新車を市場で購入する価額を損害の基本とし、被告車両を大阪南港オートオークシヨンでオークシヨンにかけ、その売却価格と被告車両を新車として被告が購入した際(同年二月頃)要した費用の差額を損害とすることに合意した。

被告は、右合意に基づき、同年四月一四日頃同オークシヨンで被告車両を売却し、三九万五三四〇円を取得した。

被告が被告車両を購入する際要した費用は以下のとおりである。

(1) 車体価額 二〇九万一〇〇〇円

消費税 一二万五四六〇円

(2) 付属品フロアマツト 九六〇〇円

消費税 二八八円

(3) 取得税 五万九八〇〇円

(4) 重量税 五万六七〇〇円

(5) プレート代印紙代 三〇〇八円

(6) 車庫証明代 二五〇〇円

合計 二三四万八三五六円

さらに被告は被告車両を右オークシヨンにかけるため被告車両を大阪まで陸送したので、その費用が一万五四五〇円かかつた。

よつて、被告の本件事故による損害は、被告車両購入費用二三四万八三五六円にオークシヨンのための陸送費用一万五四五〇円を加えた二三六万三八〇六円から被告車両の売却金三九万五三四〇円を差し引いた一九六万八四六六円である。

(二) 仮に右合意が認められないとしても、被告は本件事故により次の損害を被つた。

(1) 車両修理費 九六万一〇二〇円

(2) 代車費用 三〇万九〇〇〇円

(3) 評価損 三〇万円

合計 一五七万〇〇二〇円

(三) 弁護士費用 三〇万円

4  よつて、被告は原告に対し、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害賠償金二二六万八四六六円(もしくは一八七万〇〇二〇円)及び本件事故の日である平成四年三月一八日から支払済みまで民法所定の年五分による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、本件事故が原告の過失によつて発生したことは認めるが、その余は否認する。

過失割合については、本訴請求原因2のとおりであるから、これを引用する。

3  同3のうち、本件事故により被告車両の後部右側が破損し、被告が損害を受けたことは認めるが、被告主張の示談が成立したとの点及び損害額は否認し、その余は不知。

本件事故による被告の損害は、次のとおり六九万三〇二六円が相当である。

(1) 車両修理費 四一万〇〇二〇円

(2) 代車料 一六万円

一日八〇〇〇円として二〇日分である。

(3) 評価損 一二万三〇〇六円

修理代の三〇パーセントである。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、本訴請求原因2で述べたとおり、原告の不注意によるところが大きいが、被告の進路妨害等の過失も一因であり、被告にも三〇パーセントの責任はあるから、損害の認定に際しては、これを斟酌して減額がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

(本訴について)

第一本件事故態様及び過失割合について

一  本訴請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一、第二号証、第六ないし第八号証、証人片山の証言及び原告本人尋問の結果を総合すれば、本件の事故態様は次のとおりと認められ、これを覆すに足る証拠はない。

1 本件事故現場は、南北に走る片側二車線で中央分離帯のある国道四二九号線と、東西に走る幅員三・五メートルの一方通行の道路とが台流する付近であり、右一方通行道路から右国道に進入するには一時停止しなければならず、右国道が優先道路である。右国道は時速五〇キロメートルの速度規制がある。

本件事故当時、本件事故現場付近は夕方ですでに薄暗く、小雨が降つている状態で路面も濡れていたが、右国道の見通しは良好であつた。

原告、被告車両双方ともヘツドライトはつけていた。

2 原告車両は、時速約五〇キロメートルの速度で、右国道の中央寄り車線(第二車線)を北から南へ直進していた。当時右国道には、原告の左側の車線(第一車線)を原告車両よりやや遅れて同方向に直進する車両があつた。原告は、被告車両が右国道の外側線付近にいるのを本件事故現場から約六〇ないし七〇メートル北側の地点で発見したが、被告車両は原告車両の通過まで停止するものと思い、特に被告車両の動静に注意することなく、そのまま直進した。

3 一方、被告車両は、右一方通行道路を東から西に進行し、一時停止線で一旦停止した後、右国道に進入すべく右国道の外側線付近までゆつくりと進行したところ、北側遠方に原告車両及び前記車両が直進してくるのを発見した。被告車両は、自車斜め左前方にある国道の中央分離帯の切れ目でUターンして右国道の反対車線(北進する車線)に進入するつもりであり、原告車両の直進している車線を横断する必要があつたが、自車と原告車両の距離はかなりあつたので十分渡り切れると判断し、一旦前記第一車線に進入してやや南進したのち第二車線に進入し、前記中央分離帯の切れ目に自車の前部を入れ、自車後部を第二車線中央付近に残した地点まで進行して停止した。

4 原告は本件事故現場から約二〇ないし三〇メートルの地点で、被告車両が右のように原告の進行している第二車線に進入して進路を塞ごうとしているのに気付き、危険を感じて急制動措置を取つたが間に合わず、また自車左後方にも直進車がいたことから左にハンドルを切ることもできず、自車右前部を被告車両右後部に衝突させた。

以上のとおりの事実が認められる。

これに対し、原告はその本人尋問の中で、被告車両を初めて発見したのは本件現場から二〇ないし三〇メートルしか離れていない地点であつたと述べているが、原告は甲第二号証((株)損害保険リサーチの調査報告書)の中では右認定に副う供述をしていることに加え、甲第七号証(原告作成のメモ)で原告は自ら「無意識運転」と記入し、それに対する説明として原告本人尋問の中で「片山さんが出てくるのを見て、その後当たるまでの間を見ていないという意味」と述べていることからすれば、被告車両を発見してから危険を感じるまでにある程度の時間的間隔があつたと見るべきであり、時速約五〇キロメートルで走行していた原告車両が既に二〇ないし三〇メートルまで接近していたとすることは不自然であること、原告は一貫して過失割合では自己の方が分が悪いと述べていること、Uターンするため第二車線を塞ぐ位置で一時停止しなければならない可能性のある被告車両が原告車両とわずか二〇ないし三〇メートルという近距離で敢えて進入するのは不自然であることなどからすれば、右供述は措信し難く採用できない。

右認定事実によれば、まず原告には、被告車両が国道の外側線付近にいたのを発見した時点で、路面が濡れているため制動距離が延びることを前提に、被告車両の動静に注意し、進入してくることを予測して減速、場合によつては停止の措置を取る注意義務があつたのに、これを尽くさず漫然と被告車両は自車が通過するまで停止しているものと思い込み走行した点、過失があるものと言わざるを得ない。

他方被告車両についても、被告車両が通行していた一方通行道路は一時停止の標識があり、右国道を通行する車両が優先するのであるから、原告車両の通行を妨げてはいけないこと、国道の中央分離帯の切れ目でUターンするならば、同地点でしばらく停止せざるを得ない状況になる可能性があり、そうなれば原告車両の走行車線を塞ぐ虞があることは十分に予見されたこと、原告車両は被告車両が国道に進入しようとしていたときには六〇ないし七〇メートルの位置におり、右のようにその走行車線を塞げば衝突の危険があることも予見されたことからすれば、原告車両の進路を妨害しないよう国道への進入を原告車両の通過まで見合わせる注意義務があつたのに、これを尽くさず敢えて国道に進入し、その結果原告車両の進路を妨害した過失があると言うべきである。

したがつて、被告の主張のように、被告には一切過失はなく、原告に一〇〇パーセントの責任があるとは言えない。

二  右のとおり、本件事故は原告、被告双方の過失によつて生じたものと言えるので、その過失割合につき検討する。

前記認定によれば、被告車両は、原告車両との距離が六〇ないし七〇メートルあつたため、十分通過できると見込んで国道に進入したものであるが、前述のとおり国道走行車両が優先すること、Uターンするつもりであれば、原告車両の走行車線を塞ぐ虞のあることが予見できたことなどに照らせば、被告車両の前記過失は本件事故の一因であり、その過失は無視し得ない。しかし、原告は被告車両が国道に進入してくるのを減速ないし制動措置を取るに十分な距離で発見したのであるから、被告車両の動静に注意を払いつつ走行していれば、本件事故は生じなかつたものといえ、原告の前記過失が本件事故の最も大きな原因であり、原告の過失の方が大きいと言わざるを得ない。そこで、本件では原告と被告の過失割合は原告七〇パーセント、被告三〇パーセントと判断するのが相当である。

第二損害について

一  成立に争いのない甲第三号証によれば、本件事故により、原告車両も一部破損し、その修理に三〇万四〇〇〇円を要したので、原告は右金額の損害を受けたことが認められる。

二  右損害額三〇万四〇〇〇円から過失相殺により七割を減じると九万一二〇〇円となる。

(反訴について)

第一本件事故態様及び過失割合について

反訴請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、本訴について認定したところによれば、原告は被告に対し、本件事故により生じた被告の損害について、民法七〇九条により賠償する責任があることが認められる。また、本訴で認定したとおり、被告にも本件事故の発生について過失があり、その割台は、原告が七〇パーセント、被告が三〇パーセントである。

第二損害について

一  本件事故により被告車両の後部右側が破損し被告が損害を受けたことは、当事者間に争いがない。

二  右損害額につき、被告は主位的には、原告との間で、被告車両を新車として購入した際に要した費用と、事故後被告車両をオークシヨンにかけて売却した価額の差額を損害額とするとの示談の合意が成立したので、右差額が損害であると主張するので、この点につき以下検討する。

成立に争いのない乙第一ないし第七号証、証人松本潔の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原、被告間の交渉経過は、本件事故による損害につき原告が車両の修理代を基本に損害額を考えるべきであると主張したのに対し、被告は新車を購入する価額を基本に損害を考えるべきであるとして対立し、交渉が長引き解決の糸口が見い出せなかつたところ、平成四年四月上旬頃被告会社で、福川律美弁護士(原告が契約している興亜海上保険株式会社の弁護士)が加わつて話し合つた際、事故車の最初の値段と事故後の値段の差額を損害として認定する方法もあるとの話が出て、同弁護士が「そういう認定方法もありますから。」と発言し、右松本が別れ際に同弁護士に対し「オークシヨンに出して、車を売りますよ。」と問うと同弁護士が「やつてください。」と答え、これに応じて被告が被告車両を事故後の修理をしないままの状態で同年四月一四日頃オークシヨンにかけ売却した、というものであつたことが認められる。

以上の認定事実からすれば、右交渉は原、被告が損害について対立している中でなされたもので、オークシヨンにかけることは解決の糸口の一つとして俎上に上つたにすぎないと認めるのが相当であり、特に正式な書面が作成されていないこと、オークシヨンにおける売却価額は正確には予想できなかつたこと、右オークシヨンにかける態様も事故車を修埋しない状態のままで売却するという特殊なものであつたことなどからすれば、未だ被告主張の内容の示談の合意が成立していたとは認め難い。

よつて、被告のこの点の主張は認められない。

三  被告は予備的に、本件事故による損害につき、車両修理費を基本として主張しているので、次にこれを検討する。

1 車両修理費について、被告は九六万一〇二〇円と主張するところ、成立に争いのない甲第四号証によれば、車両修理費は少なくとも四一万〇〇二〇円を要したものと認められる(右金額については、原告も自認するところである。)。もつとも、成立に争いのない甲第五号証(見積書)は被告主張に副う内容の記載があるが、証人松本潔の証言によれば、同号証は、被告車両が売却された後に推測により作成されたもので目安にしかならないことが認められるから、たやすく採用することはできず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

2 代車料については、一日八〇〇〇円、二〇日分の一六万円は、原告の自認するところであるが、右金額以上に代車料を要したことを認めるに足る証拠はなく、結局代車料としては一六万円の限度で認めるのが相当である。

3 評価損についても、原告が自認する一二万三〇〇六円の範囲を超える損害が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、右限度で評価損による損害が認められる。

4 以上合計は六九万三〇二六円となるところ、前記認定に従い過失相殺をすると、原告が支払うべき損害額は、四八万五一一八円となる。

四  本件事案の内容、難易、認容額等を勘案すると、被告が原告に請求できる弁護士費用の額としては五万円が相当である。

(結論)

以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求は主文第二項の金員の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余は棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条、九二条を、仮執行宣言については同法一九六条をそれぞれ適用し、反訴についての仮執行免脱宣言の申立については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松一雄)

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